◆会報第48号より-05 伊佐家暮らし①

シリーズ「伊佐家の暮らしとしきたり」・・・①
伊佐家の暮らしとしきたり その1

伊佐 錠治 (会員) 

はじめに

 伊佐家住宅は享保19年(1734)に建った古民家である。主屋の棟札と建築古文書から建築された年代が明らかになり、昭和50年6月に重要文化財の指定を受けた。その後、昭和55年12月には建物すべてが重要文化財の追加指定を受けたので、建物に関しては永久保存されることになり失われてゆくことはない。但し、この家が継承してきた暮らしやしきたりについては積極的に保存して行く体制が確立されているわけではない。最近になって過去を振り返って眺め直す生き方が注目されるようになり、古民家とその暮らしとしきたりについても、現在の生活と比較するうえで関心が高まってきている。
 江戸時代から明治、大正、昭和、平成と重ねてきた生活を建造物と一緒に後の世に伝え残して行くことは、古民家を所有しているものに課せられた責任ではないかと思う。伊佐家の建造物は構造面からは詳しく調べられているが、暮らしについてはあまり知られていない。そこで暮らしをハード面とソフト面に分けて眺めてみることにする。

1、ハ-ド面に関係する知恵

 一般的に、家屋敷については建物の外観を始め各部屋などの写真は公開されているので、目にすることができる。しかしハード面でも家屋内部の細かな構造、特に生活の知恵によって形造られている部分構造は知られていないので、暮らしを支える生活の知恵に絞って紹介する。 
f0300125_0242846.jpg 内玄関と台所のさかいに、内部を隠すため引き戸(図1)が設けられている。この戸には猿戸と呼ばれる小さなくぐり戸が付いている。この引き戸は光を取り入れるために格子になっているので、日常はくぐり戸を利用するが、引き戸を全開にすれば大きなものを運び込むことができる。この引き戸は遮蔽の扉として、採光の扉として、さらに開口部を広げたり狭めたりできる扉として、3役を持つ便利な引き戸である。引き戸が少なくなった現在、くぐり戸のついた扉はほとんど利用されなくなったが、今の生活にも役立つ便利な扉である。
 生活の知恵を取り入れた扉に葦障子がある。空調のなかった昔の部屋で少しでも快適に過ごすために工夫されたもので、少しでも風通しをよくして、見た目にも涼しさを与えるものである。空気の流通を考慮したものには、部屋の飾りであり座敷の格式を高めるために工夫された欄間がある。座敷が必要でなくなり、部屋の気密性が要求される現在の生活では欄間は必要でなくなったが、部屋飾りと空気の流通を兼ね備えた傑出した間仕切りである。f0300125_0273046.jpgまた、可動式の間仕切りとして便利なものに衝立がある。しかも写真の衝立(図2)は障子がはめ込まれていて、この障子が引き戸になっているので開閉することができる。開ければ風通しもよくなるし、閉めれば部屋を隠すことができる工夫は生活の知恵である。
 現在の生活では階段は移動できないものとして認識されているが、移動も設置も簡便な階段に箱階段がある。箱階段は階段の段差に見合った引出などが埋め込まれていて収納庫としても役に立つものである。
f0300125_0302017.jpgf0300125_0323673.jpg 台所関係では暮らしの中心となるのは水回りとかまど(竈)である。飲料水は井戸水で賄うが、冷蔵庫のなかった昔に冷たい食物とか冷たい飲み物は井戸水で冷やした。また、石段(図3)を7段下ると室のような井戸端があり、ここは夏場でも気温が低く、ここに蠅帳を置いて食物の腐敗を防ぐこともできた。かまどは最も清浄な場所であることから、火とかまどの神として三宝荒神を祀るしきたりがある。伊佐家では冠婚葬祭専用の大きなかまどが土間にあって、このかまどに三宝荒神(図4)を祀っている。かまどは通常、土間に設置されているが、利便性を考えて板敷間から焚ける上のかまども用意されている。
このかまどにはかまどの脇に炭消し受け(図5)が設置されていて、かまどに残った燃える炭をこの受けに移して水を掛け消し炭にすることができる。これは板間にかまどがあるため火の用心に作られたものと思われる。f0300125_2143932.jpgこの火消しに使った水はかまどの下に設けられた水路を通って裏出口にある水門(たまり)(図6)に流れ込む。水門は風呂の排水の溜に用意されているもので、畑の肥料として役立っていた。

 その他、多くの場所に生活の知恵を見だすことができる。① 戸袋内に神を祀り(図7)、忌中には天井から吊るしてある扉を下して蓋をする。②内玄関には濡れた番傘を置く傘立てならぬ折りたたみ式の傘置き(図8)がある。③調理台とか配膳等に必要な時だけ引き倒して用いるばったり床几。④蔵の入り口にはネズミが入らない様にネズミ返し(図9)を設置する。
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⑤炭火を入れて風呂の湯が冷めないようにしてある鉄砲風呂(図10)。⑥庭の雪隠には大小共に桶を置いて使用後に捨て洗いする等、いろいろな工夫を見だすことができる。
f0300125_1154058.jpgf0300125_21087.jpg 鍵にもいろいろな工夫が見られる。鍵は錠前と呼ばれていたが、普段は外出する際に住まいに外から錠前を掛ける習慣はなかった。夜間など家の中にいる場合、外部からの侵入を防ぐため色々な施錠が工夫されている。例えば①板戸の戸袋内に板をもうけて、板戸を閉めるとこの板が倒れて戸が動かなくなる「長くるる」(図11)、②敷居にくさびを射し込む穴を設け、閉めた引き戸の後ろにくさびを落として動かなくする「くさび落し(猿おとし)」(図12)、③戸の後ろに棒を入れて戸の移動を塞ぐ「心張棒」(図13)、④観音開き戸の桟に鎹(かすがい)を設けてこれに角材を刺して開かなくする「閂(かんぬき)」(図14)等多彩である。土蔵には内部のものを守るため錠前が設置されているが、住まいとは対照的に多種類の錠前が用いられていた。これらの錠前は時代劇ドラマに出てくる土蔵の扉で見ることができる。
 この様に生活空間には多彩な工夫が残っており住みやすい環境が整えられてきたものと思われる。  (つづく)


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by y-rekitan | 2014-03-28 08:00 | Comments(0)
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