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◆会報第89号より-04 柏亭日記1

柏村直條と柳沢家家老の薮田重守(白鴎)
ー(その1)柏亭日記に見る柏村直條と薮田重守ー


 田中 美博(会員) 

1.はじめに

 江戸時代の中頃、石清水八幡宮の神人で八幡の薬薗寺に近い森に住んでいた柏村直條(かしむらなおえだ1661-1740)は連歌・和歌に長じ、京の公家や大名家と交際する文化人でした。八幡八景の選者でもある直條が書き残した柏亭日記(石清水八幡宮所蔵)を私達は最近翻刻し発行しました(資料1)。その日記に柏村直條の叔父で柳沢家の家老であった薮田重守(白鴎)とのやりとりが記されています。薮田重守は寛文4年生れ延享4年没(1664-1747)。すなわち直條の叔父ではあったが実は3歳年下で、同世代として親しく交際していました。
 
2.柳沢吉保に仕えた薮田重守(白鴎)

 薮田白鴎とは隠居後の名前で、その前は薮田五郎右衛門重守、阿波、柳沢市正などを称した。重守の父は山田小右衛門廣清という人で、その長男が直條の父で柏村家に養子に入った柏村直能、その10番目の子が薮田家に養子に入った重守でした。これらの詳細は後述する。
 知られているとおり、柳沢吉保は将軍綱吉に重用され、側用人から老中格さらに大老格までめざましい出世をした大名であった。
◆会報第89号より-04 柏亭日記1_f0300125_10402325.jpg薮田重守は吉保(当時は保明)に元禄元年(1688)に五十石で召抱えられ、忠勤に励み元禄10年に家老となり、主人の出世に伴い知行三千石にまで取立てられた。さらに吉保の跡を継いだ吉里にも仕え、江戸、甲府での勤めののち、享保9年(1724)に大和郡山への柳沢家の移封にも従い、その翌年長男に譲って隠居を許された人である。

3.柏亭日記にある柏村直條と薮田重守(白鴎)の交際

 石清水八幡宮に所蔵されている柏亭日記は元禄9年(1696)、享保14年(1729)および17年(1732)の3年間分で、これを翻刻・発行しました。元禄9年では、1月15日に直條は柳沢出羽守に仕えている弟の柏村勘左衛門(尚誠)へ手紙を書き、放生会で相撲の会を再興できるようおじの薮田重守と相談してほしいと頼んでいます。しかし、これは実現していない。享保14年4月に薮田重守(白鴎66歳)は夫人の吟(老名慈性)を伴い八幡の直條(69歳)を訪れています。夫妻は4月11日に天神森(現京田辺市)に着き、翌日石清水八幡宮に社参し狩尾社にも参拝。13日に封戸(淀にあった木津川の渡場)から船で(巨椋池を経由か)宇治橋に至り、(直條とおちあって)宇治神社祠官の芝田家で茶菓子のもてなしをうけました。直條の長女おやすは芝田家当主の妻であった。そのあと興聖寺住職に会い、方々見物して船で美豆に帰着。14日は「於草庵終日馳走ス」(日記)と直條の自宅でもてなされた。15日から嵯峨・京都へ出かけ、18日に「白鴎御夫婦京ヨリ御帰」(日記)で直條方に逗留し、21日に封戸から木津川を船で上ってはぜ(旧吐師村、現木津川市)へと向かい、帰ったことが記されています。
 一方、直條は河内方面への旅の中で大和郡山へ行くことが多く、享保14年3月と9月の2度訪れて合わせて9泊し、享保17年では2度訪れて9泊しています。このほか書状や贈り物のやりとりも多く書き記されています。

4.山田栄治郎先祖書

 大和郡山市教育委員会に所蔵されている豊田家文書の閲覧・撮影の許可をいただき、その中に薮田重守(白鴎)が書いた山田栄治郎という人の先祖書(資料2)を見つけました。下図はその翻刻版です。
◆会報第89号より-04 柏亭日記1_f0300125_10464021.jpg
 享保18年(1733)に書かれたこの先祖書は栄治郎の就職などのための推薦状であったと思われます。この先祖書は重守(白鴎)が甥の子にあたる山田栄治郎について、その先祖・家系を紹介している。しかし、柏亭日記に山田栄治郎は出てこない。重守は柳沢吉保に仕えた頃の主君の遺訓・見聞・感想を源公実録(資料3)に記しているが、これをみても栄治郎の親や縁戚関係はよくわかりません。一方、重守の縁戚関係は愛知県の西尾市岩瀬文庫所蔵の柏亭家譜(資料4)に記載があることを私達は柏亭日記翻刻の際に知りました。次号にこの先祖書と柏亭家譜の比較・検討結果を紹介します。
(つづく) 一一

(資料1)翻刻『柏亭日記』 発行:古文書の会八幡 平成30年4月吉日
(資料2)大和郡山市教育委員会提供(所蔵) 豊田家文書『山田栄治郎先祖書』文書番号214
(資料3)『源公実録』 薮田重守著 柳沢史料集成第一巻 発行:柳沢文庫保存会 平成5年3月20日
(資料4)『柏亭家譜』 西尾市岩瀬文庫蔵




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by y-rekitan | 2019-01-28 09:00
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